「うつ」と聞くと、多くの方は「気分が落ち込むこと=うつ病」と思いがちです。しかし実際には、 “うつ状態” (抑うつ気分・意欲低下・眠れない等の状態)と、診断名としての“うつ病”(大うつ病性障害)は同じではありません。まずこの違いを押さえることが、適切な治療につながります。
うつ状態とうつ病との違い
うつ状態 は、さまざまな原因で起こり得る「状態」です。つまり、発熱が様々な病気で見られる症状であることと同じです。一方、うつ病は、一定期間(一般に少なくとも2週間以上)持続する抑うつ気分や興味・喜びの低下を中心に、睡眠・食欲・集中力・自責感などの症状が組み合わさり、生活に支障が出ているときに、他の原因(身体疾患や薬剤など)によるうつ状態を慎重に除外したうえで診断される病名です。
うつ状態の原因は、うつ病だけではない
うつ状態は、精神疾患によっても、身体の病気によっても、また薬や物質の影響によっても起こり得ます。実際、うつ状態の評価では「背景に身体疾患や薬剤がないか」を確認することが重要だとされています。
うつ状態を起こし得る精神疾患の例
- 双極性障害のうつ状態 (見た目は“うつ”でも、うつ病のうつ状態とは治療方針が大きく異なります)
- 適応障害 (強いストレス要因と関連して気分が落ち込む)
- 不安症、PTSD(心的外傷後ストレス障害) (不安が主でも抑うつを伴うことがあります)
- 物質/薬剤誘発性の抑うつ (アルコール、薬物、処方薬の影響や離脱)
- 統合失調症・統合失調感情障害、摂食障害 など(うつが前面に出ることがあります)
うつ状態を起こし得る身体疾患の例
たとえば、貧血、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、睡眠時無呼吸、ビタミンB12や葉酸欠乏、感染症(HIV、梅毒、ライム病など)、脳腫瘍、脳梗塞、多発性硬化症などはうつ状態と関連することが報告されています。
薬剤・物質の影響
処方薬もうつ状態の原因となることがあります。例として、 ステロイド(副腎皮質ホルモン)、一部のβ遮断薬、インターフェロン などが挙げられています。
このように「うつ状態」と一言でいっても原因は幅広く、診療では症状だけでなく、体調変化、生活状況、服薬歴、既往歴などを総合して判断します。
うつ病の原因について
これまではうつ病以外のうつ状態の原因について説明しました。では、うつ病の原因は何なのでしょうか?
実は、うつ病の原因は1つに決められるものではなく、 生物学的・心理的・社会的要因が重なって発症する と考えられています。
ここでは、臨床的に重要な要因を列記します。
- 1. 体質・遺伝的な影響 (家族歴があると発症リスクが高まることが知られています)
- 2. 強いストレスや生活上の出来事 (喪失体験、対人関係、仕事の負荷、慢性ストレスなど)
- 3. 幼少期からの逆境体験やトラウマ (長期的な脆弱性に影響し得ます)
- 4. 睡眠の乱れ・概日リズムの崩れ (不眠や昼夜逆転が引き金・増悪因子になることがあります)
- 5. 身体疾患や痛み、ホルモン・代謝の変化 (慢性疾患は心理社会的負担も含め影響します)
- 6. 薬剤・アルコールなどの影響 (誘発・悪化・回復遅延につながることがあります)
- 7. 性格傾向・認知のクセ (自己批判が強い、完璧主義、反芻しやすい等が維持因子になることがあります)
これらは「どれか1つが原因」というより、 いくつかが同時に重なったときに発症しやすくなる 、という理解が実用的です。
うつ状態の治療について
うつ状態の治療は、「気分を上げること」だけを狙うのではなく、 原因を見立てて、必要な手当てを組み合わせる のが基本です。うつ状態は、うつ病以外(双極性障害、適応障害、不安症、薬剤の影響、身体疾患など)でも起こり得るため、最初に「何が背景にあるか」を丁寧に確認します。
うつ状態の原因が 身体疾患 (甲状腺機能低下症、貧血、睡眠時無呼吸など)や 薬剤 にある場合は、その原因の治療(内科的治療や薬の見直し)が、うつ状態の治療にもなります。それでも症状の改善に乏しい場合などは、こうつ病の治療」を組み合わせることもあります。
しかし重要なことは、うつ状態の背後に隠れた、うつ病以外の原因を見落とさないことです。
うつ病と診断された場合の治療は、日本うつ病学会などが発行する治療ガイドラインに基づき、薬物療法や精神療法、電気けいれん療法などを組み合わせた治療が行われます。
おわりに
本記事では、うつ状態とうつ病の違い、うつ状態の原因、うつ病の原因、それぞれの治療法などについて解説しました。まずは、うつ病以外のうつ状態の原因を見落とさないことが重要だと言えます。